NHKの報道

 基本的にNHKはテレビ局の中でも公平に報道しているほうだと思うが、前回の記事の「デモ参加者の主催者発表」の点はいつも気になっていた。

 NHKは、国会の与野党の日程闘争や党内の権力闘争なども、ニュース原稿では表面的にしか報じない(本音と建前なら、建前のほうを重視する)ので、しばしばつまらないと言われる。一番よく見られているニュース7で解説委員が登場しないのはやや不満だが、登場してもおのずから限界がある。こちらもそれは半分仕方ないとあきらめている。

 (まさか、NHKで「この法案は与党多数なのでどうせ成立するでしょうが、野党も反対の姿勢を見せておかないとメンツが立たないのです」とは言えまい)

 しかし、テレビ中継される委員会がどんどんワイドショー化していくのを見ると、幼稚だと感じるし、視聴者もそれに気づいてきているだろう。テレビ中継されない委員会もインターネット中継・録画配信はされているが、極めて地味なもので、与野党とも淡々と議事が進行している。そもそも記者は地味なものに関心がないのだろう(特にテレビ)。

 民放でも、東京のテレビキー局は建前重視の傾向にあり、ローカル枠では原稿や進行もガチガチに決まっているわけではなく、自由にやっているように見受けられる。

 また、NHKは、一度作ったフレーズを使いまわす傾向にある。これにミスリードが多い。

 例えば、2015年成立の安保法制については、

・戦後日本の安全保障政策の大きな転換となる安全保障法制の関連法案

集団的自衛権の行使は、自分の国が攻撃されていなくても同盟国などへの攻撃に対して反撃することで、歴代内閣はこれまで憲法9条の下、行使は許されないとしてきました

集団的自衛権を巡っては、歴代の内閣法制局長官らの答弁の積み重ねなどを通じて、行使は認められないという憲法解釈が確立してきましたが…

 といったフレーズだが、いくつもの重要な点を省いている。

 まず、「戦後日本の安全保障政策の大きな転換」は、戦後日本国憲法施行後、朝鮮戦争のあおりを受けて、1950年GHQの命令で警察予備隊(のちの保安隊→自衛隊)が創設されたことがもっとも大きいものであろう。それまで実力組織は旧日本軍が解体された後、進駐軍しかいなかった。
 ついで1960年の日米安保条約改定である。当時猛反対にあい、現在では高く評価されているが、それまでの属国的な地位が大きく改められ、双務的な条約になり、米軍による日本の防衛義務も課された。
 また1992年のPKO協力法も「海外派兵」などと相当な反対にあったが、現在ではPKO派遣自体に反対する人は少数である。

 これらに比べれば、集団的自衛権の限定行使容認は「大きな転換」というより、「政策の修正」といったほうが適切だろう。むしろ、新憲法のもと教条的に一切認めないとしてきたことのほうが現実と乖離し、不備だった。

 また、テロ等準備罪(一部メディアは「共謀罪」と呼称)では

・「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案

 といったフレーズである。

 これは、不親切な言い回しであって、かつての共謀罪からどこをどう改めたのか説明してもらわないとわからない。つまり「共謀」だけでは足りずメンバーの「実行準備行為」(ナイフを買った、航空機のチケットを手配した など)をもって初めて処罰の対象にすることを伝えるべきだろう。また、組織犯罪処罰法の改正案であることも最初に明示すべきと思われる。