英国 EU離脱は悲劇か −誇り高き英国民の選択(1)


 目次
 ・離脱は予想できたこと
 ・スコットランド独立の機運
 ・日本への影響 経済編
 ・日本への影響 政治編


・離脱は予想できたこと

 投票日前までに伝えられている英国での世論調査の結果は、残留派の英下院議員銃撃事件までは明らかに離脱派優勢であった。事件後、拮抗したが、事件がなければ離脱は既定路線だったといえる。事件を受けた残留派の緩みが、今回の結果につながったのではないか。このあたりが政治の妙だが。

 EU離脱は予想できたことであり、金融市場も既に織り込み済みかと思っていたが、事件が予測不可能性を生み、混乱をもたらしたのだろう。

 なお、当然のことながら、暴力で言論を封殺するのは論外である。

 残留派は感情に訴え、離脱派は論理に訴えた。

残留優勢
・ロンドンとスコットランド
・若年層
・高所得

離脱優勢
イングランド
・中高年層
・低所得


スコットランド独立の機運

 国民投票をやれば、人口の少ないスコットランド北アイルランドの意向は反映されにくい。2014年の住民投票でイギリス残留を望んだスコットランド住民だが、イングランドへの不満は再燃するだろう。スコットランドの独立は安全保障上、イギリスEU離脱より衝撃が大きい。スコットランドは、原子力潜水艦基地や北海油田を抱えている。連合王国は崩壊の危機にある。

 イギリスEU離脱スコットランド独立なら、世界にとっての影響は、より甚大だろう。そのダブルパンチさえなければ、影響はほどほどのところに収まるのではないか(ただし、イギリス以外でEU離脱する国が出てきたら別である。次の記事で述べる。)。無論、世界史的な動きであることに変わりはないが。



・日本への影響 経済編

 足元では急激に円高が進んでいる。そもそも、年始以来の為替水準は異常だ。半年間で10円以上も動いている。

 前回の日銀の金融政策決定会合では、市場の期待に反して追加緩和は見送られた。英国民投票の結果を見れば、その判断は正解だったといえるだろう。もし、追加緩和をした後に英国EU離脱か決まれば、追加緩和の効果は帳消しになっていたかもしれない。また、米連邦準備制度理事会(FRB)は、雇用情勢の悪化などを受けて利上げを見送った。英国民投票を控えてのこの判断も同様に正解だったといえるだろう。

 今回の円高・株安を受けて、年初以来くすぶるアベノミクスへの批判を一層強くする勢力もあろうが、まったく当たらない。もし金融緩和(量的質的金融緩和+マイナス金利政策)をしていなければ、民主党政権時のように1ドル80円というような超円高になっていただろう。また、2016年G7伊勢志摩サミット後、「リーマンショック級の危機」に陥るリスクを理由に、消費税増税を先送りしたのも賢明な判断だったといえる。円高とともに、市場では金利のマイナス幅も広がっているので、図らずも、より財政出動や設備投資しやすい環境になった。

 なお、アベノミクスでは、雇用の改善(失業率の低下)も進んでいる。総雇用者所得、有効求人倍率、内定率、最低賃金が上昇。問題点は実質賃金の低下、一人あたりの賃金の低下である。前者は、インフレ政策をとり、さらに消費税増税(5%→8%)をした以上、一時的にはやむを得ない。直近の2016年1〜3月期では改善の兆しあり。一人あたりの賃金であるが、これは今まで職を得られなかった人が働き始めたからに他ならない。数字の綾であって、野党側もわかっていながら批判していると思われる。雇用情勢の改善は明らかなるも、さらなるテコ入れが望まれる。


・日本への影響 政治編

 孤立した英国が、中国との関係をより深めるようなことがあると、非常によろしくない。日本は、米・英・豪・NZ・加などを中心とするアングロサクソン同盟の側に立つべきとした、故岡崎久彦元情報調査局長(外務省)がご存命なら、なんとおっしゃるだろうか。

 いまや金融業以外が衰退してしまった英国では、日立製作所鉄道車両工場を誘致するなど、産業の呼び込みが課題だ。中国の主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、米国の制止を振り切って、西側として真っ先に参加するなど、日本にとって不安な面がある(その後、独仏伊など欧州各国がなだれをうって参加)。先の中国習近平国家主席訪英では、英国内に中国製の原発を建設することで合意した。英エリザベス2世女王が、警備担当者に、中国からの訪問団に不快感を洩らしたのも、記憶に新しい。

 欧州各国は、地理的に遠いため、中国に対する警戒感が、日米より薄い。これから経済的な苦境を迎えれば、巨大市場がより魅力的に映る。民主主義・人権などの問題に目をつぶってでもお金には変えられない。米オバマ大統領は任期の終わりに差し掛かって、改めてチベット仏教指導者のダライラマ14世と会談したが、欧州は中国により近づくかもしれない。

 安倍政権になってから、外務防衛担当者による2プラス2を設置しており、今後も連携を深めるべきと考える。

 ちなみに、鳩山由紀夫元首相は、欧州連合(EU)を手本に、東アジア共同体構想を唱えた。基本的価値を共有する政治体制の国々でも難しいことが証明されたのに、民主主義・基本的人権・法の支配を尊重しない国と共同体など組めるはずがない。根本から間違っているといえる。鳩山由紀夫氏は政治の表舞台からほぼ消え去ったが、そのブレーンの中には、今でも平気な顔をして表舞台に出てきている者もある。今回の参院選で、市民連合主導と称して野党共闘を進めた政治学者・山口二郎氏。鳩山氏のシンクタンクで要職を務める元外務官僚・孫崎享氏などだ。

(加筆修正済み)